コンセプト

私たちは20年以上にも及ぶシーカヤッカーとしての経験を活かし、日本の環境により適したフィッシングカヤックを開発するため
2010年にプロジェクトをスタートさせました。


私たちがめざしたのは「安全性」。
安全性というと、艇の「安定性」だけが注目されがちですが、「機動性」は安全のために欠かすことのできない大切な要素です。

日本の海は厳しく、天候の急変など珍しいことではありません。
機動性に優れた艇であれば、危険な海域から安全な海域へ、又は上陸地点まで、速やかに脱出することができます。

沈することだけが危機なのではなく、漕ぎ戻れなくなってしまうこと、波や風の中でコントロールを失うこと、危険な海域に長くいること、
これらは、深刻な状態に陥る第一歩になるということを、私たちはシーカヤッカーとしての長年の経験からよく知っています。

また、動きの良いカヤックは通常のパドリングも軽快なのでパドリングそのものも楽しく、
節約できたエネルギーは、フィッシングに存分に費やすことができます。

安定性と機動性という、相反する要素を両立させるべく、私たちはデザインと設計に多くの時間を費やしました。

デザイン

フィッシングカヤックであるからには、安定性は非常に重要な要素です。
シットオントップタイプのカヤックは、セルフベイリング機構を機能させるため、シットインタイプの艇に比べて大幅に重心を上げざるを得ません。
しかし重心位置の高い船は非常に不安定になるため、従来の多くのシットオントップカヤックは、艇の幅を極端に広げることで
必要な安定性を得る、という設計手法が用いられています。
艇の幅を広げれば必然的に機動性は犠牲になりますが、安定性と引き換えにそれは甘受するしかありませんでした。

そこで私たちは伝統的な設計手法から脱却し、思い切ってシート座面を深くすることで重心を下げ、一旦大袈裟なほどの安定性を得ることにしました。
そうして高度な安定性を維持しながら、ハル(船底)の形状を限界まで絞り込むことで、大幅な加速性能の向上をめざしました。

開発チームの設計者と検討の結果、デッキ側の幅(艇の最大幅)は、充分なクーラースペースの確保やロッドホルダーの理想的な配置のため、72cmという平均的なスペックが必要であり、一方で艇の性能に影響するハル側の水線幅はそれよりも細くすることが可能であることが判明。
その結果、デッキ側とハル側では、一見別の艇であるかのような差が生まれました。

私たちの設計者は、この差を生かした絶妙なラインを構築し、その結果安定性と加速性の両立だけでなく、驚異的な2次安定性(傾いた際の安定性)をも付加することに成功しました。

シーカヤックのように反り上がったバウ(船首)の鋭利なキールラインは、波を切り裂いて進むように、
スターン(船尾)の深いスケッグ状キールは、全長の割りに高い進路維持性能を発揮するようにデザインしました。
一方、コクピット下のフラット面は、スゥイープストローク1発で充分な回転性能を生み出すことに貢献しています。

安定性、直進性、回転性、それに加速性能のそれぞれを高度に兼ね揃えた「Rock’n Roll Kayaks:Desperado(デスペラード)」の特徴的なハル形状は、
このような革新的デザインによって完成したのです。


シーカヤッカーでありながらカヤックアングラーでもある私たちは、日本のカヤックフィッシングにおける標準的な装備、運用方法も熟知しています。
それはデッキのデザインに活かされており、非常に使いやすくレイアウトされています。

片手で開閉が可能な、利便性に優れたセンターハッチは、突然の雷やサーフランディングの際に6ft程度のロッドが収納可能です。
ドレンプラグはサイドに取り付けて排水を容易に、また魚群探知機の振動子をセットできるよう、セルフベイリングホールのハル側を大径にデザインしています。
後部クーラースペースは広く、30ℓクラスの大型クーラーも積載可能。
さらに4つのフラッシュマウント・ロッドホルダーを、パドリングの邪魔にならない配置で後部に集中配置しています。


これらを具現化するためには厳密な設計が必要でした。
私たち開発チームの設計者は、船舶設計に必要な特殊機器と我が国屈指の豊富な設計経験を駆使し、この困難な設計を完成させました。
その設計値に基づき、NCルーターによって狂いのない原型が削り出され、Desperadoの製作型が造りだされました。

材質

艇の材質はFRP(Fiber Reinforced Plastics )。
多くのフィッシングカヤックは大量生産が可能なポリエチレン製ですが、私たちは材質にFRPを選択しました。

FRPは大量生産には向いていませんが、理想の舟形を実現するための細やかな造形が可能です。
「Rock’n Roll Kayaks:Desperado」の鋭利なデザインは、FRP製とすることで実現できたのです。

FRPはポリエチレンに比べて表面硬度が高く、水の抵抗を低減できるため、漕ぎ味は非常に滑らかです。
現在ではシーカヤックのほとんどがFRP製であることからも、その有効性は疑う余地がありません。
また、FRP製品は樹脂接着が可能なので水密性に優れており、デスペラードは出荷前に全艇水密テストをして漏水をチェックすることで確実な安全性を得ています。

シットオントップカヤックは表面積が大きいため、シーカヤックなどよりも重量が増してしまいがちですが、私たちのファクトリーの高度な技術力は
強度を犠牲にすることなく、僅か21kgという驚異のスペックを生み出すことに成功しました。
これは、もはや「ハンドレイアップの極致」と言っても過言ではありません。

エポキシやハニカムコアなどではなく、一般的な素材(ガラス繊維とポリエステル樹脂、ゲルコート)を使用しているため、
万が一の破損の際にも修理・補修が容易です。

また、各部のシールにはシリコンだけではなく、重要な部分にはより接着性の高い高品質シーラントを、船体の接合には最強といわれる
強力なエポキシ系接着剤を使用するなど、艇の性能だけでなく、細部にまでこだわった高品質な艇に仕上がっています。

あなたが安全に海を漕ぎ渡り、大物に恵まれますように。

Rock’n Roll!

デザイン:RAINBOW・三河湾シーカヤックスクール&PSK OUTDOORS
設計:有限会社アドバンスクラフトデザイン
製作:多田化工株式会社